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分析の目的を整理するとは?
Excelを使ったデータ分析において、最初に取り組むべき重要なステップが「目的の整理」です。データが手元にあると、すぐにグラフを作成したり、関数やピボットテーブルを使って数値を操作したくなるものですが、目的が不明確なままでは、得られる結果は断片的であり、的確な意思決定にはつながりません。
特にアンケートを設計・実施する際には、すでに「なぜこのアンケートを行うのか」「どのような意思決定に役立てたいのか」といった目的が明確になっているべきです。

すなわち、分析はアンケート作成時点から始まっていると言っても過言ではありません。
適切な設問を設け、必要なデータを収集するためには、その根底に明確な分析目的が存在している必要があります。
なぜ分析において、目的の整理が重要なのでしょうか?
例えば、イベントに関するアンケートを実施した場合、Excelに取り込んだデータから単に平均値や合計値を出すだけでは、有益な洞察にはつながりません。本当に知りたいことは、「次回以降、イベントの満足度を高めるためには何が必要なのか」、「改善点はどこにあるのか」といった、ネクストアクションに繋がる気づきを得ることです。目的整理は、これらの気づきを得るために必要なプロセスです。
このように、目的を整理にしていくことで、Excelでどのような分析を行うべきかが見えてきます。相関分析を使うのか、比較のためにグラフを作るのか、あるいはカテゴリごとの傾向を見るためにピボットテーブルを使うのか、といった判断が容易になります。目的がはっきりしていれば、使用する関数や分析手法、視覚化の方法も的確に選ぶことができるのです。
また、分析結果を活用する場面を想定することも大切です。たとえば、社内での報告やイベント主催者へのフィードバック、次回の企画改善への活用など、使い道によって分析の深さや見せ方も変わってきます。目的整理は、単なる準備ではなく、「分析結果をどう活かすか」を逆算する思考そのものです。
アンケートを題材にした目的例
以下のようなアンケートを例とします。
No | 項目 | 設問文 |
---|---|---|
1 | イベント参加有無 | イベントに参加有無を教えてください。 |
2 | イベント参加時間(分) | イベントに参加していた時間を教えてください。 |
3 | 会場までの移動時間(分) | イベント会場までの移動時間を教えてください。 |
4 | イベントへの費用感(円) | イベント参加費の目安を教えてください。 |
5 | 満足度 | イベント全体の満足度を教えてください。 |
6 | おすすめ度 | このイベントを同僚にどの程度おすすめしたいと思いますか。 |
7 | コメント | 自由記述 |
目的を整理するためには、このデータを使って「何を明らかにしたいか」を考える必要があります。
例えば、以下のような目的が考えられます。
- 参加者の傾向を見つけたい
「イベント参加有無」から、参加した人の傾向を分析します。特定の部署や役職など、参加率が低い要因を調べ、なぜ参加しなかったのかの原因を探ります。 - イベント満足度に影響する要因を明らかにしたい
「費用感」や「移動時間」、「イベント参加時間」と「満足度」の関係を分析する必要があります。満足度に関係する要因を探ります。 - おすすめ度が高い人の特徴を知りたい
「おすすめ度」が高い人と低い人で、「イベント参加時間」や「費用感」と「おすすめ度」に影響する要因を分析します。おすすめのスコアが高い人の特徴を把握することで、どのようなユーザー属性がイベントに積極的であるか把握します。
このように、1つのアンケート結果でも、目的の立て方次第でまったく異なる分析が可能になります。
目的整理の思考術
ここまでで分析を始める前に目的を整理することの重要性を説明しました。

目的を整理するといっても、色々な視点があるので、どのように体系立てて整理すべきか迷う・・・
ということはよくあります。
そういったときは、思考術で整理しましょう!
企業や組織が戦略的に目標を達成していくためには、GOAL(目標)を中心に、KGI(重要目標達成指標)、CSF(重要成功要因)、KPI(重要業績評価指標)の関係性を使うと、整理しやすいので紹介します。
■全体図

特殊な用語を使っているため、1つ1つのキーワードを説明します。
GOAL(目標)とは
GOALは、組織が中長期的に達成すべき理想の姿や到達点を指します。たとえば、「国内No.1の顧客満足度を実現する」「3年以内に国内シェアNo1を実現する」などがGOALの例です。
これは組織の方向性を定めるコンパスであり、戦略や施策すべての出発点となります。
KGI(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)とは
KGIは、GOALの達成度を定量的に測る指標です。すなわち、GOALが達成されたかどうかを「数値」で判断するためのゴールマーカーです。
たとえば、「売上高○○億円達成」などがKGIにあたります。KGIは最終的な成果の指標であり、組織の成否を測る基準とも言えます。
CSF(Critical Success Factor:重要成功要因)とは
CSFは、KGIを達成するために特に重要な取り組みや成功の鍵となる要因です。KGIを構成する「質的要素」として、戦略実行上の要所とも言えます。たとえば、「リピーター顧客の増加」「新規市場への参入」などがCSFです。
CSFを明確にすることで、戦略上の重点ポイントを把握し、リソース配分の最適化が可能になります。
KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)とは
KPIは、CSFの達成状況を定量的に評価するための指標です。日々の業務活動がCSFにどれだけ貢献しているかを可視化し、PDCAサイクルをまわすための運用指標となります。たとえば、「問い合わせ対応時間の平均○分以内」「メルマガ開封率×%以上」などがKPIに該当します。
KPIは短期的・定常的にチェックされるため、現場の具体的な行動に直結します。
また、各指標は誰が管理するのかもポイントです。各指標は連動・整合して初めて効果を発揮するため、特定のポジションの担当者だけで考えるだけではなく、関係者を巻き込んで管理する必要があります。
・GOALやKGIは、主に経営層がトップダウンで設定
・CSFやKPIは、ミドル層や現場がボトムアップ/実行主導で運用
ただし、現場担当者からすると、経営層をプロジェクトに巻き込んでリードするには意思決定や会議体の調整などスピード感が落ちてしまう側面もあります。企業・組織のGOAL設定は1年or3年の中計で決まっているケースも多々あります。そのため、中計からGOAL設定を抽出して、CSF、KPIのロジックを構築することで、いまやるべき指標(タスク)の優先度決めをすることもできます。
大切なのは、KPIだけを追うのではなく、上位概念であるGOAL、KGIを理解したうえで、KPIの設計と管理を行うことです。
アンケートを題材にした目的例を思考術に当てはめると
従業員の定着率向上をGOALとして設定し、CSFおよびKPIを整理した例です。本ケースではイベント開催を題材としており、CSFには「社内コミュニケーションの活性化」を設定しています。CSFを細分化することで、KPIの設計やアンケートの目的整理へと繋げやすくなります。

まとめ
Excel分析における最初の一歩である「目的の整理」は、単なる事前準備ではなく、分析全体の質を左右する最重要ステップです。データを前にしてやみくもに操作を始める前に、GOAL/KGI/CSF/KPIを明確にすることで、分析の方向性が定まり、成果につながる可能性が格段に高まります。
ExcelやPower BIの知識はもちろん大切ですが、それだけでは十分とはいえません。むしろ、分析の質を左右するのは、どのような問いを立て、どう解釈し、どんなアクションにつなげるかというビジネス的思考です。その意味でも、「目的の整理」は単なる前準備ではなく、思考力が問われるフェーズといえます。
今後、アンケートに限らず様々なデータを扱う場面が出てくるでしょう。その際にはぜひ、この「目的の整理」の考え方を意識し、分析に臨んでください。Excelは、正しく使えばビジネスに大きな価値をもたらす強力なツールです。
目的を持って分析ツールを使えば、数字は自ずと語り出し、意思決定を支える確かな根拠になります。